研ぎ澄ますという選択

現役時代、試合が近づくと、私はテレビ、ネット、メールを必要最小限に抑えていた。減量もあり食べる物も極力控えていた。日本人二人目の世界チャンピオン、ファイティング原田さんはこんな言葉を残している。

「満腹のライオンと空腹のライオン、どちらが恐いかって言ったら、そりゃあ後者だよ」

この言葉には闘う者の本質が詰まっている。満たされた状態は人を鈍らせる。逆に空腹は感覚を呼び覚ます。

これは食事の話だけではない。今の時代、スマホを開けば、情報はいくらでも流れ込んでくる。ニュース、SNS、他人の意見、評価、噂話。便利である一方で、それらは確実に神経を鈍らせる。
ボクサーにとって、すべての情報を受け取ることが正解だとは思っていない。むしろ、あえて遮断し情報を断つことで、自分の内側にある感覚に意識が向く。

研ぎ澄ますとは、何かを足すことではなく余計なものを削ぎ落とすことだ。トレーニングも、食事も、情報も同じだ。引き算の先にしか、本当の集中は生まれない。削ぎ落とされた静けさの中で、自然と殺気が生まれる。作ろうとして出すものではない。整った結果として滲み出るものだ。

こんな時代だからこそ、この「研ぎ澄ます」という感覚の重要性を、選手や会員に伝えていきたい。自分自身もあの時の感覚をもう一度取り戻したい。