僕は現役時代35試合戦った。
そのうちの34戦目のエピソード。

練習ではカウンターが上手く決まっていて、
試合でもそれで倒したいと思っていた。
僕のスタイルは打ち合いを好むファイタータイプ。
だけどその試合では封印して距離を取り、
カウンターを決める作戦だった。
杉田竜平の新しいスタイルを
披露したいという気持ちもあった。

しかし、
相手はタイの選手でくねくねしてやりにくかった。
タイミングがつかめず
カウンターは当たらないまま
試合は終盤まで進んでいった。

僕は第1ラウンド開始早々から
全力でチャンピオンにぶつかっていった。
2ラウンドにダウンを奪われたが、
それでもなりふり構わず前に出た。

…しかし、実力の差は歴然で結局第4ラウンド、
畑中会長のタオルで試合終了となった。
僕は畑中会長に抱きかかえられ大泣きした。
会場にいたお客さん、
解説の元世界王者のお二方にも
涙していただく試合となった。


観に来てもらった人に納得、
満足して帰ってもらいたい。
そんな人のためを思って戦った試合だったけど、
結局それは自分の喜びに変わっていた。
試合は負けたけど僕の心は満たされていた。

対戦相手も、
観客の心をも打つパンチ

勝ち負けよりも、
価値を蒔けるような戦い

そんなボクシングに拘るのは、
そんな僕の生の体験があるからに他ならない。

ボクシングは危険なスポーツにもかかわらず
未だに存続しているのは、
そこに感動があるからだとおもう。
僕はそんなプロボクサーを育てたい。